目の前のスクリーンに交戦中の映像(ホログラフィ:立体映像)が映し出される。映像からして、不明組織の動員ならば圧倒的不利だ。
高性能の銃や最新機器を手に建物に侵入を開始したC-NEOの戦闘員。
それに対して、不明組織の戦闘員。建物の窓から伺える小さな姿はまだ子供だが、其々の手にお世辞でも新しいとは言えない武器を持っていた。
数瞬間、十数年前の記憶が鮮明に甦り思考を侵す。
(…似ているが、違う。)
目を細めてスクリーンを眺めるも、その中に見知った姿はない。味方に顔見知りがいたとしても、敵には一人としていないのだ。
同僚の隊員達が建物に侵入してすぐ、発砲音が鳴り響いた。立て続けに鳴る銃声。おそらく飛び交う弾丸は一気に増し、映像の中、遠くで負傷者のつんざくような悲鳴が聞こえた。
ブチッという音を最後に、わずか数分間の映像は途切れた。
向かい側でただ映像を凝視していた望月(もう情報部長だったか…?)とアイコンタクトで合わせ、風見を盗み見た。
飄々とした表情で欺けているように見えるが、濃厚な負の感情の色は瞳まで隠せない。実戦経験を持つ隊長格とジイさんを除いた他の奴等も同じだ。
「この記録はその不明組織との交戦映像だ。ただ、大方組織の出所は割り出せている」
「…国内の秘密組織か?」
重森が一拍置いて小さく頷いた。
「宍蔵の言う通り国内の組織だ。元は研究組織だったようだが、監査の目をくぐる為に対C-NEOの戦闘員も育成しているという報告もある」
重森の静かな咳払いが張り詰める会議室に響く。
「加えれば、今日此処に集まってもらったのには理由がある。―――C-NEO内部に数人、スパイが潜入している」
「そんな…C-NEOの入隊はおろか、基地の出入りでさえ厳しいチェックがあるのに…」
参謀の一人が口にした言葉は尤もだった。
「緊急に集まってもらったのは、今伝えるべきだと中枢協議会が判断を下したからだ。此処に集まっている者は皆、信頼な足る人物だと自負している。…くれぐれも、内密に事を進めなければならない」
「―――つまり、最重要機密ね」
諜報部長の守代の代弁に重森は再び頷き、躊躇するように視線を下げた。
「今回は事が事だ…この場にいる全員は解散後すぐに黙秘暗示を受けてもらう。無論、私もだ。」
深い溜め息と共に、重森は「以上だ。解散」と告げてスクリーンを消した。
重苦しい雰囲気の中、一斉に立ち上がり出口を通り抜ける出席者を見送った重森の隣に立つ。
座ったまま立とうとしないジイさんへと、ポケットに探りを入れて引っ張り出した煙草の箱を投げた。
「有難いが、今はいらない…宍蔵、私はもう煙草は吸っていないんだ」
「アンタ、折角の俺の好意をな…まぁいいか。それよりも…すっかりジイさん面になっちまったな、”重森総長”」
わざとらしく懐かしい呼び名で呼んでやると、重森は困ったように笑いやがった。
視線を泳がせた末、俺は卓の上にどっかりと腰を下ろし、無用になった煙草を作業用のつなぎのポケットに押し戻す。
「お前はまったく変わらないな、宍蔵。あの頃と変わらず豪快で分かり易いんだか分かり辛いんだか曖昧な男だ……私はもう愚かな老人達の一人”上層部幹部”だよ」
「…随分変わったな。アイツも俺も、アンタも」
ふふふ、と一人重森は柔和に笑う。
「何だ?」
「いや……、私は救われているんだよ」
「救ってるつもりはねぇ」
「誰も君とは言ってないさ」
また穏やかな光を瞳に宿し、記憶の中よりも随分と年老いた重森は変わらない面影を持った中年の男を見上げた。
「君と私と、彼の為にやったことを少したりとも後悔していない自分に、救われているんだよ」
珍しく顔を寄せ、呆気に取られた顔で数秒フリーズした宍蔵に苦笑を零して姿勢良く立ち上がった。
「―――スパイ捜索の為には、あらゆる視点からの全構成員の詳しい経歴と怪しい点を見直さなければならない」
俺に背を向けると、重森は一転して厳しい面持ちに豹変した。
皺一つない細身のスーツの背中に緩んだ顔を引き締める。
「ヤツは俺の勘じゃ白だ」
「それには同意するが、全て詳しく調査しなければどうにも言えん」
「一斉調査となると…な…アイツのことが浮き彫りにならなきゃいいんだが」
一拍の間を置いて、淡白に、されど溜め息混じりに重森が言葉を吐き出した。
「…もう限界だろう。寧ろ、今まで隠し通せた事の方が奇跡に近い」
「ま、アイツも自分のことは自分で守れる歳になったさ」
大柄で筋肉質で如何せん腹が出ているこの中年男が、昔の面影を残した笑顔で豪快に笑った。
会議室に背を向けた老人が微笑みながら最後に呟く。
「狼、野に放たれる、か。」
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